t18mmの片持ち階段で、メゾネットの上下階に光を通す
大阪・東住吉区のメゾネットマンション(4人家族)のフルリノベーション事例。2階の間仕切りと既存の造作階段を撤去し、下段をt18mmの片持ち、上段をトラス構造とした階段に置き換えました。吹き抜けから1階へ光を通し、シーリングファンと床暖房で上下階の温度差を抑えています。

一戸建ての開放感を持つ、大阪・東住吉のメゾネット
メゾネットは、マンションの一住戸が上下2層にまたがる住まいです。一戸建ての縦の暮らしと、マンションの安心を同時に持てる。その一方で、間仕切りが多く、階段が動線を断ち切っている物件も少なくありません。STUDIOM+は、この種の住戸を数多く手がけてきました。構造を活かせば、開放感と機能性は両立できるからです。
昭和町駅から歩いて5分。閑静な住宅街に建つマンションの最上階に、賃貸オーナーが所有するメゾネットがありました。閉じた間取りと、その圧迫感。一時は引っ越しまで検討された住戸を、4人家族が住みやすい空間へ作り直す。それが今回の仕事です。
掲げたコンセプトは、家族がいつも顔を見合わせて暮らせること。上下階を光でつなぐ連続性(シークエンス)を計算し、リビングの中心に鉄骨の造作階段を据えました。私たちはそれを「リビングに君臨するスチール造作のスケルトン階段」と呼んでいます。顔を見合わせるには、まず家の中の壁を減らす必要がありました。
階段が生活動線を分断する問題
壁の正体は二つ。2階を閉じていた間仕切りと、そこに置かれた造作階段です。どちらも空間を圧迫し、上と下を別々の場所にしていました。この二つを外したとき、上下階は初めてひとつの空間として見通せるようになります。

目指したのは、水が流れるように開放的で、しかも機能する空間。その方針を二つの手に落としました。「自然光を階下へ導く吹き抜けのフレーミング」と、「シーリングファンと床暖房による、上下階の熱空気循環の適正化」です。

間仕切りと階段を外し、1階からも余分なものを削ぎ落とすと、残る決断は一つでした。新しい階段を、どの向きに架けるか。選んだのは横。空間に強い印象を残しながら、緩やかに場を仕切ることができます。足元は、幅広のオーク無垢材を浮造りにし、馬張りで敷いています。ただ、横に架けるという選択は、この住戸の構造と正面からぶつかりました。
片持ちとトラス、2つの構造を1本の階段に組み合わせる

下段はt18mmのスチールを壁から片持ちで張り出し、上段は6φの丸鋼で組んだトラスで自立させる。素材も構造も異なる二つを、1本の階段の中で受け渡しています。その継ぎ目が、この空間のアイコンになりました。

理由は壁にあります。片持ち階段は、新築なら構造体と一緒に仕込めますが、マンションの改修で後付けするには、受け止める壁が要る。この住戸で下地が入っていたのは、2階を支える押入れの壁、一面だけでした。下段はそこに預けられても、上段は開口部にかかり、下地を仕込む余地がない。だから上段だけを、壁に頼らないトラスに切り替えたのです。
t18mmは、鉄骨屋と試作を重ねてたどり着いた片持ちの限界です。これより薄い板は、試作の段階で撓みました。片持ちとトラスを1本にまとめた階段を、私は他に見たことがありません。マンションではどちらも単独では成立しにくく、戸建てや大きな住宅ではそもそも組み合わせる理由がない。完成した階段を前に、施主は「マンションでこんな階段が付けられるとは思わなかった」と言いました。上下がひとつに開けば、空気もまた上へと動きはじめます。
上下階の温度差を吹き抜けとシーリングファンで解消
暖かい空気は2階に溜まる。メゾネットが抱える、もう一つの宿題です。シーリングファンで空気を攪拌し、床暖房と組み合わせて、上下の温度差を抑えました。

キッチン側でも天井を落とし、高さを開いています。その高さを受け止めるのが、次の二つのプロダクトです。
高さを活かすグラフテクトとFLOS 265

ダイニングの壁には、FLOS 265。名作と呼ばれ、年々価格が上がり続けているブラケット照明です。キッチンはグラフテクトのアイランド。重い質感が、自然光の陰影でいっそう際立ちます。

天井の高い空間に、何層にも重なる黒いラインの隙間から光が入ってくる。その隙間を覗くと、黒い線の奥で、光が幾重にも重なって見えます。
鉄骨屋と試作を重ね、撓む寸前の18mmまで薄くした階段。その手間が、なぜ住まいの価値になるのか。手がかりは「おしゃれ」という言葉の正体にあります。単純な家は飽き、複雑な家は育つ。その仕組みを、現場と科学の両方から書きました。





